DSM―精神疾患の診断基準―
DSMという精神疾患の診断基準をご紹介します。
心理系大学院の中でも臨床心理系大学院を受験するのであればDSMは必須です。
ここでは、知っておくべきDSMの考え方や大きな変化、診断方法の特徴などをご紹介します。
DSMとは?
DSMとは、アメリカ精神医学会:APAが発表している精神疾患の診断に用いられるマニュアルです。
正式には精神障害の診断と統計の手引き(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、DSM)
DSM同様にICDという診断マニュアルもあり、世界保健機構:WHOのものです。
DSMの改正の歴史
初期のDSMについては割愛してDSM-ⅢからDSMの歴史を見ていきたいと思います。
○DSM-III
1980年発表。多軸評定という新しい手法を導入したことが特徴である。
障害概念も追加され、診断項目はほぼ倍増した。
DSM-III以来採用されている、多軸評定という手法は、下記の5つの軸によって障害を分析することで、障害を
多面的に捉える。
第1軸・・・臨床的障害、ないしは臨床的関与の対象となりうる他の状態。
パーソナリティ障害および知的障害を除く14個の障害概念が第1軸に含まれる。
第2軸・・・パーソナリティ障害および精神遅滞が第2軸に含まれる
第3軸・・・一般身体疾患(General Medical Conditions)。DSM-IIIにおいては身体状態と呼ばれていた。
第4軸・・・心理社会的および環境上の問題。DSM-IIIにおいてはストレス強度と呼ばれていた。
第5軸・・・全体的機能評定(GAF: Global Assessment of Functioning)。
DSM-IIIにおいては社会適応水準と呼ばれていた。
例えばDSMⅢで診断をする場合、「第一軸:全般性不安障害 第2軸:境界性人格障害 第3軸:なし・・・・」
のように診断する。
○DSM-III-R
1986年発表。DSM-IIIの改正版である。
DSM-IV
1994年発表。ICD-10との整合性確保を図るなどした改訂版。精神障害を16群に大別した。
○DSM-IV-TR('Text Revision' of the DSM-IV)
2000年発表。
○DSM-5
2013年発表予定。ICD-10との統合も検討されている。
現在用いられている自閉性障害(=自閉症)、アスペルガー障害、広汎性発達障害(PDD-NOS) という3つの下位タイプに代わり、「自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder:ASD)」という1つの診断が採用される。つまりアスペルガー障害と広範性発達障害がなくなって自閉症スペクトラム障害に統一されるということ。
○DSMによる診断の特徴
○多軸診断
上記の通りです。
○操作的診断基準
各障害を定義し(記述定義)、複数の特徴的病像が認められるかどうか(つまりどれだけの障害の項目に当てはまるか)で操作的に診断を下す。これを操作的診断基準という。
臨床像の記述は、容易に確認できる行動の徴候や症状(例えば、失見当識、気分の障害など)で成り立っており、
観察者側の解釈は最小限しか必要とされない。その利点としは、診断が人によって変わってしまう可能性が低いということである。
○人格障害の診断の特徴
しかし、人格障害=パーソナリティ障害などの診断においては、観察者側が解釈する必要性がより大きい
とされている。
○DSMにおける病因・発症プロセス
上記の記述的、操作的な立場に基づき、各障害の病因や発症プロセスに関しては、
特定の理論に準拠しない(十分に解明されているもの(器質性精神障害と適応障害)を除く)
そのため、“心身症”、“神経症”といった診断分類も採用しない。
○複数の診断
複数の診断基準のうち一定の数以上を満たすことで診断を確定する。
DSM-IVでは必要に応じて複数の診断を下すこと(重複診断)が認められている。ただし、階層構造が仮定される場合があり、そこでは重複診断はなされない。
つまり上位の精神疾患とその下位の精神疾患が重複しない、ということ。